どうして自ら孤独を選ぶの? 僕とは正反対だね。
せっかく出会ったんだ。一緒に、心の底から笑ってみようよ。
君が僕達のことを嫌いだと言っても。いいよ。僕は君のことが好きだから。
だってその事実は、変わらないから。
6.Rome was not built in a day.
着替えを済ませ鞄を持つと、彼は静かに扉を開けた。
振り返ろうと立ち止まり、しかし躊躇って視線を落とす。
―――怖い―――
扉は音を立てずに空間を隔てた。
その板の厚さは、心の距離に等しい。
大広間に梟が飛び交い始める頃、の隣にジェームズが座った。
「エバンス、、おはよう」
「う?あ、ジェームズー。おはよー」
「おはよう。ずいぶん遅かったのね、もうそろそろ朝食の時間終わるわよ」
意外にしっかり目が覚めていると、呆れ顔のリリー。
ジェームズの正面に座ったシリウスは、皿をリリーに渡した。
「俺らのせいじゃねぇって。なあ、アレ取ってくれよ」
リリーは手を伸ばしてポテトを取り分けた。
「はい。皆で寝坊したの?」
「寝坊でもないんだな、これが」
カレッジが、ジェームズの隣、の膝の上で欠伸をしながら言う。
くすっと笑みを漏らし、はかぼちゃジュースのゴブレットを手に取った。
「そういう割には眠そうだね、カレッジ」
「るせぇ」
ジェームズたちがそれに笑っていると、シリウスの隣から小さな声がした。
「あ、あの・・・ご、ごめんね、僕のせいで・・・」
「「?」」
リリーとはその声を聞いて、思わず彼の顔を覗きこんだ。
そう、湖を渡る船で一緒になった男の子。
彼がこの輪の中に入っているとは夢にも思わず、近くに居たのに気にも留めていなかった。
「あ、じろじろ見たりしてごめんなさい。あなたは・・・?」
リリーが躊躇いがちに声をかけた。
後に続いて、は手を差し出す。
「あたし、・。彼女はリリー・エバンス」
、と聞いて、彼は縮こまり、「ひっ」と言った。おずおずと出された手を握る。
「僕は・・・ピーター・ペティグリュー。君達たしか、船で一緒になった・・・よね?」
うんうんと二人は頷いた。
シリウスがピーターの髪を掻き回す。
「コイツ、俺達と同室なんだ」
「朝、彼の羽ペンがなくなってね。探してたらこんな時間になっちゃったんだ。
ピーター、もういいって言っただろう?」
「でも・・・」
ピーターはビクビクと二人の顔を窺った。
小さな目が怖気づいているのがよく分かる。
はリリーと顔を見合わせ、溜め息をついた。
「ねね、ピーター、大丈夫だって」
「そうよ、二人とももういいって言ってるじゃない。
羽ペンは見つかった?」
リリーに問われ、ピーターは小さく頷いた。
彼の後ろを何人もの生徒が騒ぎながら通る。
「よかったわね。ほら、あなた全然食べてないわよ。何が欲しいの?」
「エバンス、僕ソーセージ欲しい!」
「あらそう。、取ってあげて」
思い切り手を上げたジェームズを、軽くあしらうリリー。
とシリウス、それにピーターも、おなかを抱えて笑った。
それに紛れて、ゴブレットを置くコツ、という音がした。
がそちらを見ると、が立ち上がるところだった。
「? どうしたの? 元気ないね」
彼は俯いてカレッジを抱き上げる。鞄を肩にかけると、呟いた。
「・・・ごめん」
そして彼は駆け出した。人を押しのけ、大広間を出る。
「え、?」
思わず腰を浮かせたを、シリウスが制した。
「俺が行く」
「あ・・・うん」
シリウスは後でな、と言い残し、後を追って扉に向かった。
途中、スリザリン生が避けるように道を開けたのを、は複雑な気持ちで見ていた。
階段を駆け上がり、彼は変身術の教室の近くまで走った。物陰に入り、壁を背に座り込む。
膝の間に顔をうずめ、呼吸を整えた。
「、少しずつ慣れないと」
「分かってるよ、僕だって好きでこうしてるわけじゃない」
彼は、朝のピーター事件に腹を立てていたわけではない。
煩いところが嫌いなわけでもない。
どちらかというと人懐こく寛容で、賑やかな所などは大好きなのだ。
けれど、彼の血の力はそんなことに構ってくれない。
今だって、たちの馬鹿騒ぎに加わりたくてうずうずしていたのだろう。
それが分かるからこそ、カレッジは顔を歪めた。
「! 居るか!? おい!」
廊下に、声が朗々と響き渡る。
の体が確かに強張った。
「シリウス、だな」
主の耳元に顔を寄せ、カレッジはそっと囁いた。
頷く頭。
「!」
は硬く目を瞑り、両手で耳を塞いだ。
彼ら以外に誰も居ない廊下では、シリウスの焦る気持ちが直接心を蝕む。
やがて舌打ちを残し、彼は上の階へと駆けていった。
ゆっくり目を開け、長く息を吐く。
もう一度膝に顔をうずめると、は絞り出すように呟いた。
「・・・・・・もう、嫌だ・・・・・・」
カレッジは何も言わずに身を摺り寄せる。
が戻ってきたのは、変身術の授業が始まるほんの少し前だった。
皆が教室に入り、席を確保していると、彼は例の如くカレッジを抱いて静かに教室に入ってきた。
「あれ? !」
ジェームズは目ざとくそれを見つけ、の元まで走った。
「どうしたんだい? 心配したよ」
腕を引き、席までゆっくり歩き出す。
は何事も無かったかのように微笑んだ。
「ごめんね。どっかで肖像画が呼んでるのが聞こえて・・・」
「そっか、ならいいんだ。
あ、シリウスー! が居た!」
の後方から、シリウスが教室に入ってきた。
思わず振り向く。
ジェームズの声に反応し、そしてを視界に入れ、シリウスは驚いたように目を開き走ってきた。
「なんだよ、来てたのか。どこ行ってたんだ? 探したぞ。」
探した、と言われ、は少し気まずく思い、口ごもった。
「どっかの肖像画に呼ばれて、な。悪かったよ、シリウス」
代わりにカレッジが謝ってくれた。
心の中で感謝する。
「ごめんね、シリウス」
思いを吹き飛ばし、済まなそうに苦笑した。
シリウスは短く息を吐くと、安堵したように笑った。
「そうか。何も無くて、良かった。達も心配してたぜ?」
「うん、後で謝っとくよ」
そう言ったところで、マクゴナガルが入ってきた。
「いつまで出歩いているんですか? 席に着きなさい、授業を始めます」
今日の変身術は、マッチ棒を針に変える授業だ。一人につき一本マッチが配られ、練習する時間になった
「昨日、本で読んだのよ。たしかこうやって杖を振って・・・」
リリーはなにやらブツブツ呟いている。その隣で、はクラスを見渡した。
あちらこちらで、生徒達が苦戦する声が聞こえる。しかし、斜め後ろに陣取った彼ら三人は、そうでもないようだ。
「こんな簡単なことより、悪戯だよ、シリウス、」
羊皮紙を前に、ジェームズが両脇の二人に囁いた。
シリウスも早速乗り気で、いそいそと羽ペンを用意していた。
は呆れ気味に頬杖をつく。
「二人とも大丈夫なの? 先生回ってきた時、できないのにこんなことやってたら怒られるよ?」
ジェームズはウインクして親指を立てる。
「心配御無用! 僕、一通りの魔法は使えるから。好きなんだ、魔法使うの」
「俺の場合はアレだな、英才教育ってやつ?」
シリウスは軽く肩をすくめて言った。
なるほど、ブラック家ならばやりかねない。
「は勿論大丈夫だろう?」
ジェームズに言われ、彼は頷いた。
「まあね。結構得だよ、最初から知識も技術も備えて生まれてくるから」
おぉーと二人が声をそろえた。キラキラ輝いた瞳で、を見る。
「最高だな。これで悪戯好きときた」
「いいねぇ。ますます欠かせない存在だよ、」
苦笑しながら、結局も羽ペンを取り出した。
「ありがとう」
ピーターは後ろでの会話を恨めしく思いながら、マッチに向かった。
咳払いを一つして、杖を振る。
勢いよく振った割には、マッチ棒は銀色にすらなってくれない。
溜め息をついて、ふと隣を見た。
「あ、凄い・・・」
彼の隣には、船で一緒に乗っていた少年が座っている。
少年のマッチ棒は、銀色で堅くなるところまで変化していた。あと、もう少しだ。
たしか同じ部屋だったのだが、少年が自己紹介の前にカーテンを閉めてしまったので、ピーターは彼の名前を覚えていなかった。
後ろの三人に聞こうと、首を回しかけたそのとき、シリウスの声がした。
「お。お前すげーじゃん」
少年と共に、ピーターは振り向く。
シリウスの隣で、ジェームズがけたけた笑った。
「あはは、嫌味にしか聞こえないよシリウス」
「いや、だってよ・・・」
「うん、でも凄い。あと少しだね、リーマス」
微笑み言うを見て、ピーターはやっと彼の名を思い出した。
リーマス・J・ルーピン
もう一度見つめると、リーマスは眉をひそめた。
目を瞑り、ふいと青白い顔をそらす。
「おい、何も無視することないだろ?」
シリウスが、彼の肩を掴んだ。
その瞬間、リーマスが強く腕を引き、肩に置かれたシリウスの手を払った。
顔だけ振り返り、鋭く冷たい目つきでシリウスを睨む。
カレッジがにピタリとくっついた。
単純に怖かったのもあるが、それより何より、彼から発される感情がとても複雑なものだったからだ。
リーマスの声は静かだった。
「僕に構わないで」
シリウスとピーターが言葉に詰まり、凍りつく。
「でも・・・せっかく同じ部屋になったんだしさ。僕ら、いい友達になれると思うよ?」
爽やかに笑ってジェームズが言った。
しかし、リーマスの瞳は変わらなかった。
―――友達なんて・・・―――
「友達なんて、いらない」
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